
キリスト教徒がイースター(復活祭)を祝う頃、7日間に渡るユダヤ系のお祭り「過越しの祝い」(ヘブライ語でぺサー、英語ではパスオーバー)がある。旧約聖書の出エジプト記にもとづき、イスラエル人の奴隷解放を祝う大切な行事だ。 1990年の国勢調査によると、ユダヤ系カナダ人の92%は、過越しの祝いをすると答えている。ハナカ(8日間の光の祭)を祝うと答えた87%を上回っているのは、注目に値する。 伝統的で、しかもドラマティックなセーダー(聖餐)を伴う「過越しの祝い」に皆さんを招待しよう。
今から約三千年前、エジプトにいたイスラエル人は多産だったので、おびただしく人口が増え、すこぶる勢いで強くなっていった。 新しい王、ファラオの統治下になったエジプトは、これ以上イスラエルの民が増えることを恐れ、彼らに過酷な労働を課し、イスラエルの女が男の子を産んだら、その子を殺すよう助産婦たちに命じた。 さて、ある時ひとりの女が男の子を産んだが、3ヶ月の間、隠して育児をしていた。しかし、隠しきれなくなったので、パピルス製の籠に赤ん坊を入れ、誰かに拾われることを祈りながら、ナイル川の岸に放った。 川下でファラオ王の娘が赤ん坊を発見、乳母を雇って育てることになる。この男の子が、モーゼである。大人になったモーゼは同胞の苦役を見て、ファラオのもとを逃れ、エホバの神の助けを借りて、イスラエル人の指導者となった。
エホバの神はモーゼに告げる。 こうしてエジプト全土は疫病に見舞われ、エジプト人は次々に死んでいった。一方、イスラエル人はエホバの言った通り、無事だった。 エジプトの王に就くべきファラオの息子が疫病で亡くなった時、ファラオはモーゼに「イスラエル人を連れてエジプトを出国せよ」と命じる。 そこでモーゼは約60万人のイスラエル人を率い、カナン(今のイスラエル)を目指し旅立った。しかし、紅海にさしかかった時、ファラオが差し向けたエジプト軍が迫ってきた。 モーゼが杖を挙げると、紅海の水は右と左に分かれ、イスラエル人たちは海の真ん中の乾いた地を進むことができた。追いかけてきたエジプト軍は、水の壁が崩れ、一人残らず溺れ死ぬ。イスラエル人の一行は、やがてシナイの荒野に着く。モーゼはエホバ神に呼ばれてシナイ山に登り、ここで十戒を授かり、律法を制定するのである。 これは、何本も映画化され、誰もが知っている話である。
過越しの祝いの初日はセーダーがあり、家族みんなが揃って礼拝と4時間近い夕食となる。ユダヤ系の主婦は、この日のためだけに使う食器や台所用品を用意している。
クッションが家長の椅子に添えられ、イスラエル人の奴隷解放の自由を表し、テーブルには、ヘブライの預言者エリヤのために、空席をひとつ用意する。セーダーの間、ダイニングルームのドアは開けておき、エリヤが入れるようにする演出も。前述した食べ物すべてが過越しのシンボルとなっている。 「いけにえ」の羊を象徴する羊のすね骨、苦しい奴隷生活を表す苦菜、奴隷の苦役の一つであった漆喰塗りを象徴するハロセット、エジプトを出国したイスラエル人が砂漠の中で時間がないため、イースト抜きで焼いたパン(マッツァ)、悲しみの後には喜びが、冬の後には春がめぐってくることを象徴するパセリなどである。
セーダーが4時間近くかかるのは、ハガダの朗読と合唱があるから。ハガダは過越しの祝いの本で、出エジプト記をもとにした祈りや問答が載っており、各人が順番に朗読する。 セーダーでは、テーブルに着いている最年少の子どもが、4つの質問をする儀式がある。例えば、
「なぜホースラディッシュを食べるの?」
「どうして二度塩水に浸してから食べるの?」
「甘い香草をなぜ食べるの?」 といった具合だ。 また、ハガダの中で10回に渡ってエジプトを襲った疫病のことが言われるたびに、ワインを指先につけて、そのしずくを皿の上にたらす。ワイン(子どもはグレープジュース)を飲むときは、一息に飲み干さねばならない。セーダーの儀式では、4杯のワインを飲むことになっている。一気飲みだから、さぞや酔いが早く回るのでは・・・。 7日間、過越しの祝いが続く間はマッツァとポテトスターチは料理に使われるが、イースト入りのパンはご法度である。
カナダには約35万人のユダヤ系が在住する(96年統計)。決して多い数ではないが、医者、弁護士、実業家、企業のトップグループに占めるユダヤ系は驚くほど多い。 歴史上、長い間「流浪の民」と言われ、弾圧と離散の悲劇を味わってきたユダヤ民族だからこそ、高等教育を受け、より良い職業に就いて成功を収めることが、彼らの幸せのバロメーターになっている。 宇宙の絶対神によって選ばれた唯一の民族こそユダヤ人であるという「選民思想」のもとに、約束事が多い契約の書が「旧約聖書」だ。 そして「血」を大切にする結束力の強さと、選民思想による閉鎖的な優越意識も、彼らを成功へと導く大きな原動力になっていると言えるだろう。 (2005年05月01日) |
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