異文化考察

日本人に似た人たち・・・イヌイット


 「あなたと私はいとこ同士よ」 自己紹介する私に向かって、いきなりイヌイットのリアさんは言った。
「そうね。先祖は同じアジア人ですもの」と答える私。

 今年47歳になるリアさんは、
「よく日本人に間違えられるのよ」と化粧っけのない顔をほころばせた。

 私にとって、生まれて初めて遭遇したイヌイットなのに、東洋的な容貌のためか、まるで近所のおばさんに再会したような不思議な親近感を持ってしまった。リアさんも私を見てすぐに打ち解けたのは、やはりお互い似通っている者同士だから?

 彼女の生まれはカナダのずっと北端にあるバフィン島のポンド・インレット。現在は二人の子供とオタワに住むシングル・マザーだ。

「オタワは冬でも暑くって、自分で作ったダウン入りのパーカを着られやしない!」とリアさんは、まわりの人を笑わせる。

 イヌイットはアザラシやセイウチ、カリブーなどを狩猟するが、神からの贈り物を必要以上に殺さないという鉄則を守っている。例えばカリブーを1頭倒すと、その場ですぐに解体し、剥いだ毛皮の中にすべて(頭も)包んで持ち帰る。

 そして何ひとつ無駄にしない。食用の肉は家族だけでなく、近所の人たちとも分け合う。なめした皮で服や蒲団やテントを作り、骨や角は家庭用品やさまざまな道具に変身する。脂肪は燃料になり、内臓からは紐や糸を作る。

 リアさんはカミック作りの名人だ。カミックとはアザラシの毛皮で出来たブーツのこと。カミックを作る母親や祖母から5歳のときに習い始めたという。

「巻尺なんてないから、手のひらと指で大きさを計ったのよ。私は今でも洋服を作るときは手の指の長さでわかるの。下手に巻尺を使ったら間違えてしまうわ」

 カリブーの糸できっちり縫ったカミックは完全防水で、普通のブーツとは比べ物にならないほど温かいそうだ。

 それでも近代化が急速に進むイヌイットの世界では、伝統的なカミックやパーカを身につける人は激減している。

「今の若い人たちは、カミックを正しく裁断することすらできないのよ。だって切るときには毛並みの方向に沿って左右上下が決まるのに、それがわからないのよ」
彼女は少し苦々しそうに言った。

 「だから私は、こうしてカミックのイヤリングを作るようになったの。私はカミックが大好き。これをイヌイットの若者や子どもたちに見せて『ほら、小さいけれど本物のカミックよ』って。イヌイットの伝統を次の世代に伝えていきたいから・・・」

 リアさんは、長さ2センチほどの可愛らしいカミックを自分の両耳にぶら下げてみせた。ミニチュア版だが、もちろんアザラシのなめした皮を使い、型の取り方や縫う手順まで、すべて本物のカミックと同じようにして作ってある。きれいなビーズで飾りをつけ、1ペアー65ドルで売るそうだ。

 リアさんの生まれ故郷ポンド・インレットは2000年に誕生したヌナブート準州にある。イヌイットの「立国」を彼女はどう思ったのだろうか。

「4月1日の祝賀会に出席したのよ。ああ、あんなに嬉しかったことは、人生でなかったわ!ちょうど鎖につながれていた犬が、鎖を切ってとうとう自由になったっていう感じ。イヌイット語でのスピーチを私たちがどれほど誇らしく聞いたことでしょう!スピーチが続く間、ほとんどの白人たちは、首をすくめてちぢこまっていたのよ。そうよ、私はこの目で見たんだから!」

 興奮気味にリアさんは語った。イヌイットがこれから先、自分たちの政府を自分たちでコントロールできることは、最高に素晴らしいという。リアさんは、会話の中で「マイ・ピープル」「マイ・ランド」という言葉を頻繁に使った。

 高い失業率と自殺率、アルコールやドラッグの依存症など、先住民に共通する深刻な問題をイヌイットは抱えている。

 しかし「我らの大地」という意味であるヌナブート準州は、30年近い連邦政府との粘り強い交渉の後、いよいよ国づくりをスタートさせたのだ。2万5千の人々が、より良い自治政府を築いていくことを願うばかりだ。

 ヌナブートを去ったリアさんだが、カミック・イヤリングを媒介にして、イヌイット文化を「マイ・ピープル」だけでなく、広くカナディアンに伝え続けていってほしい。

(2004年11月28日)



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