カナダのニュース

ぬくもりのあるコラージュの世界を広げる
テキスタイル・アーティスト-キャロル・ザビストンさん

 ビクトリアのダウンタウンの中で、一番にぎやかな通りに、ちょっと味わいのある本屋が並んでいる。ネオクラシック様式の重厚な建物は天井が高く、本屋と言うよりアートギャラリーのよう。バンクーバー・サンやグローブ&メイルのコラムニスト、アラン・フォザリンハムが"カナダで、いや北アメリカで最も荘厳な書店"と賞賛したマンロー書店である。(1108 Government St.)

 初めて店を訪れる人は、店内の3つの壁に掛けられた幾つかの大きな布製のバナーに目を奪われる。テキスタイル・アーティスト、キャロル・ザビストンさんの作品である。

「四季の部屋」と題したバナーは、さまざまな色の布や糸が縫いつけられ、パッチワーク風ではあるものの、今まで見たこともないユニークなコラージュとなっている。ブリティッシュ・コロンビア州の美しい四季の移り変わりが、温かみのある材質感と一緒に伝わってくる。

 キャロルさんの作品はBC州のみならず、カナダ東部やアメリカ、イギリス、スペインなどに展示されている。ビクトリアにおいては、銀行のロビー、教会の祭壇、ビクトリア大学の劇場の緞帳、警察署のホール、病院の講堂やラウンジなどで彼女のアートにお目にかかる。

 先日、キャロルさんの作品のスライドショーとレクチャーがあり、その数日後に彼女のアトリエを訪問し、お話をうかがった。

           

オイル・ペインティングからコラージュへ

 1939年、イギリスのロンドン生まれの一人っ子。8才のとき両親と共にカナダへ移住した。91才になる母上は、ビクトリアのシニアーホームで今も健在である。前夫との間にひとり息子がいて、再婚したジム・マンロー氏(マンロー書店経営者)のまま娘(前妻は作家のアリス・マンロー!)そして5人の孫に恵まれている。

 ビクトリア大学とブリティッシュ・コロンビア大学を卒業後、12年間中学校で美術を教えていた。当時は油絵が専門で、オンタリオ州に3年間在住したころから油絵にアルミホイルや紙を貼るコラージュを試作、その後次第に絵筆に代わり、針とハサミを持つようになっていった。

「布地のコラージュを始めたころは、すべて手で縫いつけていたのよ。だんだん作品が大きくなってきたら、一針ずつの手作業は大変でしょう?ジグザグミシンでガーッと縫いつけてみたの。そしたら、ミシンの縫い目がかえって面白い効果を生んで、それ以来ずっとミシンを使うようになったのよ」と屈託なく笑うキャロルさんだが、大きなバナーとなると、幅3m、長さ10m近い作品もあり、制作には8人の助手がつき、大作の上を飛び回って、まさしく"テキスタイル・エアロビック"と言えるほどの肉体労働だとか。

               

布の魅力に惹かれて

 1979年京都で工芸会議が開かれ、世界中から約2000人の工芸作家が参加した。キャロルさんはこの時、日本の伝統的な美術や文化に魅了され、着物のハギレを精力的に集めた。

 その後、日本滞在の思い出を5枚のバナーに制作し、5枚を並べて1枚の壁掛けとして完成。現在は彼女の自宅リビングルームに飾られている。寺の境内のじゃり道、相撲、着物、鳥居など盛り沢山の日本が描かれたバナーだ。

 制作に使う布は染めたりせず、あくまで素材そのものの面白みを利用する。したがって、キャロルさんのハギレや古着への固執は想像以上のものがある。レースやパイピングテープやアルミホイルのキラキラしたテープなども、大切な画材となる。

彼女がデザインし、劇場の背景画として使った布の切れ端をすべてもらって、新たにバナーを作ったり、ストッキングの片足分をそのまま作品に縫いつけたり、古い自分のイブニングドレスをバナーの一部にしたり。抽象的なデザインなので、じっと目を凝らして、やっとストッキングの形を見つけることができる。

 1980年代にビクトリア市内の街灯バナーをデザインし、それぞれの通りに6色のテーマ色を決め、街ごとに違った雰囲気を作り上げた。当時バナーは印刷でなく、すべて布地を縫いつけたコラージュを1枚ずつ制作し、3年間街を飾ったそうだ。

 1986年のバンクーバー・エキスポでは、開会式に登場した大きな太陽のデザインを担当した。また1994年にビクトリアで行われたコモンウェルス・ゲーム(英連邦競技会)のために作った直径約5mの半円状のバナーは、300人以上のボランティアと実際に制作に関わった人々の手形を縫いつけ、2年間のプロジェクトの末に完成した作品である。1枚の半円バナーは、次の競技会場であったクアラルンプールに寄贈され、残りの1枚は現在ビクトリア市立図書館の玄関ホールに飾られている。

            

ユニークなアイデア

 キャロルさんの作品は『ユニーク(独特)』『ノン・トラディショナル(伝統を打ち破った)』『ファン(楽しい)』『コンテンポラリー(現代風)』という形容詞で賞賛されることが多い。

 「小さい頃から空飛ぶ絨毯にあこがれていて、今でもアートの題材によく使うわね」

 確かにスライドショーでは、彼女の何点かのバナーに空飛ぶ絨毯のデザインがあった。自宅のキッチンの棚には、いくつものガラスの小瓶が並び、可愛く波打ったミニチュアの絨毯が、瓶の中に糸でぶら下がっている。もちろん彼女のお遊びの作品だ。いくつになっても少女のような心を持ち続けるキャロルさんの横顔である。

 それまで長さと幅だけの広がりだった二次元のバナーに、空間を取り入れて三次元の世界にしてみようと、82年新しい試みに挑戦した。

 高さ3mの三角形の複数のバナーを天井から吊るし、36kgの重りをつけて、右へ左へとゆらゆらと動くようにしたのだ。それは「セーリング」と題され、ビクトリア美術館で展示された。

「展示を見て回る人たちが歩くと、部屋の空気が流れて帆が動くの。帆をいろいろな角度から見てもらえるし、鑑賞者とアートが相互作用する面白さがあったわ」

 海と空のモチーフや銀色に輝く波のモチーフなど、海に囲まれた島(イギリスとバンクーバー島)での生活から、自然の恵みに近い距離にいるキャロルさんをうかがえる明るくすがすがしい作品だ。そして、この中の一つの帆には約20本のネクタイがそのまま縫いつけられてあり、またしても彼女の遊び心が覗く。

 87年にロイヤル・カナディアン・アカデミー・オブ・アーツのメンバーに選ばれ、92年にはオーダー・オブ・ブリティッシュ・コロンビアを受賞。95年、ビクトリア大学の美術学名誉博士号を授与された。

 現在は顧客や会社や公共機関などからの注文に応じて、バナー制作をしている。

「これからは、今までお留守にしていたペインティングを再開してみたいわね」キャロルさんの創作意欲は、止まることを知らない。

初出:「日加タイムス」 2005年6月10日号


ホーム戻る

Copyright (C) 2001-2005 Yumi Schemmer. All rights reserved.
This site best viewed using 800 x 600 screen resolution and True Colour display.