カナダのニュース

ウエストコーストに溶け込んだ
花鳥風月の世界を描く
日本画家・ジュコスキー君子さん

 去年の秋、ビクトリア北部で「シドニー・ファイン・アートショー」が催された。これはバンクーバー島、周辺のガルフ諸島などから公募によって集まった絵画、彫刻、工芸品の数々を地元の芸術評議会と商工会議所が審査した作品の展示即売会で、レベルの高さと内容の充実さで知られている。

 今回は約400人のアーティストから1000点以上の作品が応募され、231人の作品が厳選された。その中に、何人かの日本人の名前があった。日本画家ジュコスキー君子さんと彼女の絵画教室に通う生徒たちだ。

 君子さんの日本画は、まぶしいほどの鮮やかな群青と緑青を背景に2羽の丹頂鶴が舞う姿の"Courtship Dance"、竹やぶの中の可愛らしいスズメ"Sparrows In Bamboo"、BC州のタカカウア滝を描いた"Ancient Falls"の3点が見事に審査を通過した。

 伝統的な日本画の素材を媒体にしながら、モダンな描写と色使いが新鮮さを感じる作品である。シドニーにある君子さんのアトリエを訪ねて話をうかがった。

あきらめかけた絵の道

 熊本県出身の君子さんは、5人姉妹の末っ子。ファッションデザイナーだった姉に影響され、高校を卒業するとイラストレーターになるため上京した。しかし、田舎出身という負い目があって、なかなか都会に溶け込めず、イラストレーターの道は断念し、会社の事務職に就く。

 しばらくして、東京で英語教師をしていたモントリオール出身のカナダ人、スティーブ・ジュコスキーさんと出会う。ふたりは結婚し、スティーブの仕事のため、台湾で1年間生活することになる。

「スティーブはいつもスケッチブックを持ち歩き、絵を描いていたので、彼に感化されて暇な時間もあったし、水彩画を始めたの」

 日本に戻ってからは、子育てに専念し、あまり絵筆を握ることはなかった。息子がアメリカン・インターナショナルスクールの小学生になった頃、主婦向けのカルチャーセンターで、油絵を習い出した。絵を描くことは好きだったが、子どもの夏休みが長いと、自分の時間が無くなり、レッスンは休止した。あくまでも、主婦の趣味程度といったスタンスで、油絵を描いていたのだ。

 数年後、息子を上学年のインターナショナルスクールへ転校させるため、一家は小平市へ引越した。ここで君子さんは運命の出会いを体験する。

             

ベテランに混じって

 小平市を探検しようと町を散歩していた君子さんは、ギャラリーで催されていた日本画個展にふらりと立ち寄った。そこには日本画家、井上清治氏の作品が並んでいた。

 水彩画や油絵に親しんできた君子さんにとって、日本画との出会いは、思いもかけず新鮮だった。さらに井上氏の作風に深く感動した彼女は、ギャラリーのスタッフから日本画教室があることを聞くと、さっそく井上氏のもとで習い始めた。

 麻紙(まし)、岩絵具、膠(にかわ)、胡粉など独特の画材はもちろんのこと、描写テクニックもすべて初めてという、ゼロからの出発だったが、繊細な日本画の世界に君子さんは魅了されていった。

「小平市はアーティストの多い町で、当時私が通っていた井上先生の教室では、どの生徒も日本画歴3年以上15年までで、私から見たらベテランぞろい。アマチュア、プロの画家が30名くらい腕を磨いていたんです。まだ初心者のつもりの私に向かって、井上先生が『いったい君は、どういう気持ちで絵を習っているのかね。趣味か?』と聞いてきたんです。『筋がいいから、本格的に習う気はあるのか』と。『じゃあ、プロにしてください』って答えて、それからプライベートレッスンが始まったの」

 君子さんはその翌年、小平市の美術展に公募した「寂静」という作品で、最高賞の市長賞を獲得した。

           

のんびり島で生活

 いよいよこれから日本画家のプロとして活躍できる、と意気込んでいた君子さんに、再び転機がやってきた。

 東京で外資系の会社員として、日本人並みに残業やビジネス接待を続けていたスティーブが、モーレツサラリーマンを返上してカナダへ戻りたいと訴えたのだ。君子さんたちは、友人家族の住むピアーズ島へ移住した。ピアーズ島はシドニーの真北にあり、人口約80人の小さな島。車なし、商店なし、ぐるっと歩いて1時間で島巡りできるといったら、その大きさがおわかりになるだろうか。

 各家は海岸に桟橋があり、ボートやセイリングが楽しめる。島民は家族ぐるみで付き合い、ひんぱんなパーティーや、お互い気軽に助け合う生活だ。買い物や通学はフェリーを利用し、シドニー側の船着場には、ピアーズ島民専用の駐車場があるから不便はない。そんなスティーブのあこがれだった生活が実現し、のんびりと3年間を満喫した。その後、スティーブの仕事の都合で、対岸のシドニーに引っ越して5年になる。

 君子さんの作風には、この数年変化がみられる。毎日眺めていた桟橋の絵やヨットから見える海をモチーフした作品が多くなり、日本で描いていたころの花の絵は、シンプルな背景が多かったが、カナダに住むようになってからは、背景にベーカー山の雄大な姿を入れたり、ダイナミックな描写になってきている。

「これからもウェストコーストの自然を取り入れ、日本画の伝統的なスタイルと異なった花鳥風月をモチーフにしていきたいわ」

 過去の作品の数々は、スーク・ファイン・アート・フェスティバルやビクトリア・アート・ギャラリーの展示会で高く評価されている。将来は教えている生徒の作品も一緒に日本画グループ展を開きたいと抱負を語る君子さん。これからの活躍が期待される新進画家である。

・君子さんのウェブページ http://members.shaw.ca/kimikoweb/

初出:「日加タイムス」 2005年2月4日号


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