
よくよく見ると、なんと本物そっくりの人形ではないか。高校生にもなって、人形を連れて歩かなくても、と思いながら話を聞くと、これは家庭科の課題で、3日間赤ちゃんの世話をする宿題だという。
赤ちゃん人形を抱かせてもらって、またびっくり。ずっしり重く、抱きごたえ充分。それもそのはず、人形の中にはコンピューターが内臓されており、プログラムどおりに赤ちゃんが泣く仕組みになっているのだ。
だいたい4時間おきに赤ちゃんは泣き、ミルクをあげるかわりにカギを背中にしばらく差し込んでおくと泣きやむらしい。ところが、いつも寝かしっぱなしでは、泣いてばかりいるそうだ。だから、人間の赤ちゃんのように、抱いたりあやしたりしなくてはいけない。要はどれだけ赤ちゃんが動かされるかが大切なのだ。
夜中に何度も泣いたり、他の授業中に突然泣き出したり、生徒はまさに丸3日間、育児にふりまわされる。しかも、3日間の赤ちゃんの状態はコンピューターに記録され、どの程度世話されたか、先生があとからチェックするので、手抜きはできない。
もちろん、男子生徒にも課せられる宿題なので、たまたまパーティーに招待されていようが、友達とショッピングに出かけようが、赤ちゃんとは密着行動しなくてはいけない。
街角で赤ちゃんを連れているティーンエージャーに興味の目が集中し、ときには冷たい誤解の視線を受けることもあるとか。
たった3日間でも、睡眠不足と慣れない育児に疲労こんぱいする子供たちには、自然と親への感謝の気持ちが生まれるらしい。さらに、若くして未婚の親にはなるまい、という思いも強まるとか。こんな宿題なら、親も大歓迎である。
初出:「婦人公論」海外女性通信 2003年11月7日号 |
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