カナダのニュース

ジュディー・シャーマンさんの
だまし絵の世界 -トロンプルイユ-

 トロントの郊外、オーロラに住むジュディーさんは、トロンプルイユ(だまし絵)を専門とする女性画家。彼女が創り出す世界は、思わず触って確かめたくなるほど超リアリズム。遊び心いっぱいの楽しいだまし絵をご紹介しよう。

イタリアで魅了された「だまし絵」

 子供の頃から、絵を描くことが好きだったわね。カレッジを卒業して、広告関係のグラフィックアートを仕事にしたの。でも、1990年ごろから商業アートはコンピューターグラフィックが主流になり、私の本心は、もっと筆で絵を描きたい!って思っていたの。

 そこでトロントのアートスタジオでイタリア人の先生、マイケル・ジョン・エンジェルに絵を習い、それから95年10月にイタリアのフローレンスへ渡って、約半年フレスコ画や油絵を本格的に勉強したのよ。

 バチカンの教会の中って、柱や彫刻で一杯だけど、そのほとんどがトロンプルイユだってこと、知ってる?トロンプルイユ(trompe l’oeil)はフランス語で「目をだます」という意味。超リアリズムの三次元の世界よ。

 教会の壁際にある柱や彫刻の量感、質感ともに本物そっくりで、そんな絵が何百年も息づいているのに感動したわ。ただトロンプルイユは、やっぱり絵だから、教会の中をぐるりと歩きながら見ていくと、どこかで目線の角度に無理がきて、あっこれは彫刻じゃないって気がつくけど・・・。

壁をカンバスにして

 トロントに戻ってから、幸い仕事に恵まれて、これまでにトロント小児病院内にある部屋の壁画やガン患者のサポートセンター"Gilda’s Club"の壁画を描いたの。それから、週1回絵画教室で油絵を教えているわ。

 でもメインの仕事は、個人に頼まれて家の中の壁にトロンプルイユを描いたり、フォー・フィニッシュ(Faux Finish)のペイントをすることね。フォー・フィニッシュとは、部屋の壁に平凡なペイントじゃなくて、特徴あるテクスチャーを現すために、プラスティックシートを重ねてしわを作ったり、わざとまだらに色をつけたりするテクニックのこと。最近はレストランの内装でも、フォー・フィニッシュを好んでするから、とってもトレンディなの。

 そのほか、家具に直接絵を描く仕事もあるわ。ダイニングチェアーの背もたれのところに絵を描いたり、たんすを一軒の家に見立てて、絵を描いたりね。

 トロンプルイユを家の中に描くときは、家のオーナーとよく話し合うの。何といってもお客さんの希望を第一に入れて、どんなテーマにするか、何が好きなのかを聞くの。値段?1週間ほどで仕上がる小さな絵なら、$850-1200が平均的な値段かしら。

 3,4週間もかかる大きな部屋だと、$4000ぐらいになるでしょう。でも、部屋の中に高価な油絵を飾るより、安上がりよ。しかも、ユニークな部屋の壁絵は家の価値も上げるから、良い投資だと思うわよ。

だまし絵のトリック

 家の中に無駄な空間があったり、玄関前の吹き抜けに、ただ白いだけの壁がむき出しになっていたりしたら、トロンプルイユの格好の場所になるわね。

 ある家のオーナーに頼まれ、ニッチ(壁面のくぼみ)を描いて、さてその中に何を飾ろうかしらって相談中、彼はアンティークの本が大好きだとわかって、さっそくそのニッチに古めかしい本を数冊描き入れたわ。

 ニッチの中に光沢のある布を敷いた壷を描いたこともあるわね。無造作な折り皺のある布の温かな質感と、陶器の放つなめらかな質感とが、手に取るように感じることができれば大成功よ。

 それから、トロンプルイユはフルカラーでなくても、三次元の世界を充分に表現できるのも特徴のひとつ。0から9段階の色の濃さだけで、最低限の種類の色を使って、ライオンを描いたこともあるわ。部屋の中に実際に入ってくる光と影をそのまま絵の中に描くとリアルさが倍増されるの。(写真参照)

 このトロンプルイユ(写真参照)は、吹き抜けになった玄関の前の壁に、バーン(厩舎)風の窓とミルク缶や干草を描いたもの。見上げるほどの高さにある絵なので、下からの視線、角度を計算に入れながら、奥行きのある窓や物体を描くのが難しかった!だって、窓のふちは見えない死角になるでしょう。それも描き出さなくてはいけなかったから。窓のところに留まっている鳥とちょうど飛び立った鳥に注目してね。

 三次元のトリックは、壁の前、壁そのもの、壁の向こうの3点を描くと、よりリアリティーが出るの。

 大きな窓の向こうに広がる海を描いたトロンプルイユ(写真参照)は、ロブスターの乗っている箱が壁の前、3匹のぶら下がった魚がちょうど壁の位置、そして海が壁の向こうという三次元の世界を表わしているでしょう?

 タイタニックを描いた子供部屋は、前進してくる船のダイナミックさと氷山とで、部屋の中にいると、寒くなるくらいよ!(写真参照)

 イルカや亀が泳ぐトロンプルイユから、本当に自分が海の中にいるような幻想を味わって欲しいわね。

 これからも商業アートでなく、人々の目を楽しませるイルージョンの世界を創り続けたいわ。

初出: 「日加タイムス」 2003年4月4日号


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