オンタリオ州が提供している特別教育には、自閉症児、知的障害児、学習障害児らを対象にしたプログラムのほか、知的レベルが極めて高い児童のために「ギフテド・プログラム」と称する英才教育がある。
すべての公立小学校では3年生全員にギフテド・テストを実施し、筆記試験で選抜された生徒には、心理学者による個別の面接テストを行う。こうして、IQスコア、創造性、情緒レベルなど総合的な考察の結果、全3年生の約2%が「ギフテド・チルドレン」として鑑定される。
その後、ギフテド・チルドレンの保護者を対象にしたオリエンテーションが開かれる。というのは、自分の子供がそんなにデキルとは信じられない親や、ビックリ仰天して右往左往する親もいるため、まず親の教育から始めなければならないわけだ。
ギフテドと判定された生徒は3つの選択肢がある。
1.そのまま普通学校(ホームスクール)にとどまる。
2.週1日の英才教育プログラムに参加し、週4日はホームスクールに通う。
3.フルタイムの英才教育プログラムを備えた学校に転校する。
さて、英才教育とはどんな内容なのだろうか。
カリキュラムは、学年に沿った学習で普通学校と大差ないが、違う点はトピックスを詳細に深く突っ込むことだ。生徒の学習するスピードが早いため、高いレベルに挑戦する時間が充分あり、生徒は各自で調査や発表する場合が多い。
また、1日の授業の中で、Thinking Skills(思考スキル)を習うことは特筆すべきだ。Thinking Skillsとは、
1.抽象的概念を明確に系統立てる思考
2.複雑な情報処理法
3.観察力
4.学習スピード
5.仮説を立てる能力
6.語彙の使い方
7.自らの動機づけ
8.好奇心
9.学習意欲を開発するためのノウハウだ。
トロント郊外の閑静な住宅街の中にあるロイ・H・クロスビー小学校を取材してみた。
「4年生から始まる英才教育は、子供たちにとって最初の1年間が試練と言えるでしょう。それまでクラスの中でトップスターだった子供たちが、今度はどんぐりの背比べを経験するからです。」と、スミス校長は言う。
「知的レベルが高い子供だからといって、必ずしも良く勉強するとは限らないので、ギフテド・クラスに入ったとたん、先生の期待が高くなり、子供たちは努力して学習しなければ、良いパーフォーマンスはできません。5年生や6年生になると、生徒はクラス内での自分の位置づけに納得し、また精神的にも成長するので、授業を楽しみながら学習する傾向になります。実際にクラスの討論会ともなると、文字どおりブレーン・ストームとなり、生徒たちはお互いにチャレンジして、ずごいアイデアが飛び出しますよ。」
5年生のギフテド・クラスを担任するゲーゼン先生は、「生徒の中には授業中にわざと答を間違えて、教師を試す知能犯もいるので、教師もオチオチできません」と笑った。
日本だったら、「早期語学教育!」とか「一流大学、エリートコースへまっしぐら!」とか言うスローガンが聞こえてきそうだが、オンタリオ州の場合、極めておおらかな「英才教育」がのんびりと行われている。
私事で恐縮だが、わが息子と娘はふたりともギフテド・プログラムを受けている。息子は6年生のクラスで気球を制作し、その飛行実験がとても面白かったと言う。 娘の場合は6年生の授業で、おなじみの「3匹の熊」の物語を基に、主人公ゴーディロックを熊の家に不法侵入した罪に問う模擬裁判のシナリオを作った。本格的な法律用語を駆使した台本は、大人でも舌を巻くほどの出来栄えだった。
子供たちのクラスメートを見ていると、確かに個性が豊かすぎるほど、ちょっと変わった子が多いが、ひとりひとりの豊かな能力を摘み取ることなく、伸ばしていこうとするプログラムは、オンタリオ州の公立学校制度の恵まれた選択肢のひとつである。
初出「日加タイムス」1997年4月4日号より