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カナダの司法

カナダ最高裁判所 日本とカナダの裁判の大きな違いは、陪審員制度だ。被告人を有罪とするのも、無罪とするのも、一般市民から編成された12人の陪審員の評決次第。

 日本の場合、第一審(地方裁判所、簡易裁判所、家庭裁判所)においては、1人または3人の裁判官で、第二審の高等裁判所では3人の裁判官による合議制、そして最高裁判所では15人の裁判官が合議制で判決を宣告する。

 カナダやアメリカのように、一般市民が司法に大きな役割を果たす陪審制裁判とは、いったいどんなものなのだろう。

◆陪審員とは?

   18才以上でカナダ市民権を保持する者は、陪審員として司法に参加するという市民の義務がある。カナダの陪審制裁判は1215年に成立したイギリスの制度を基にしている。

 国税庁による国民リストから、ひとつの裁判で75_100人の陪審員候補者が公判の場所を考慮した上で選ばれる。

 ところが、陪審員に絶対選ばれない人たちもいる。それは、
 @機密機関および最高執行委員会の職員
 A上院・下院議員
 B判事や弁護士などの法律家および法学部の学生とその配偶者
 C医者
 D警察関係者とその配偶者
 E陸・海・空軍関係者
 F消防士 
 である。

 陪審員候補者は、裁判所に出廷し、名前を書いた紙がくじ引きで呼ばれるのを待つ。その裁判を受け持つ予定の弁護人と検察官が候補者を一人ずつ、陪審員として「認めるか」「拒否するか」を決定する。

 一方、候補者側も正当な理由があれば、陪審員の義務を免れることができる。例えば、英語がよくわからない、子供が小さい上に経済的な理由で公判中ベビーシッターを雇うことができない、会社の重要な立場上、長期休暇が取れない、健康に問題があるなど、それなりの理由でお役目御免が成り立つ。

 従って、陪審員になる可能性が高いのは、時間に余裕のある専業主婦、退職者、自由業、長期休暇がとれる職員といったカテゴリーの人たちだ。

公平な裁判を行うためには、陪審員の選定も法の下に公平でなければならない。しかしながら、決定される陪審員の顔ぶれが、もしも同じような職業や年齢層になった場合、果たして評決は本当に公平なものが期待できるだろうか、大いに疑問である。

 陪審員の報酬は、ごくわずかだ。公判が始まってから最初の10日間は、交通費のみで、1日キロメートル当たり何ドルという計算法。11日目から日当プラス交通費が支払われる。

 雇用主は、もし従業員が陪審員を務めている間は、収入をある程度保証しても良いし、全く払わなくても良いことになっている。ただし、従業員が陪審員になったことを理由に解雇したり、職場を代えたりするのは違法であり、最高で罰金1万ドル、または3ヶ月の懲役に処せられる。

◆司法取引

 カナダでは刑事事件で有罪となり、服役中の犯罪者のうち、53%が司法取引を行っており、そのほとんどが検挙された時点で、警察側と被疑者の間で取り交わされている。(John Klein著 "Letユs Make a Deal"より)

 また、裁判が始まる前に、検察側と弁護側の司法取引もしばしば行われる。これは裁判の時間と費用を節約するためだ。

 これによって、被疑者は起訴される段階で、罪の一部を免除されたり、検察側からの求刑を軽くしてもらうわけだ。被疑者は有罪を認め、スピーディーな公判が進められる。しかし、このように裏で取り決められる「司法取引」は、果たして正義と言えるのだろうか。

 カナダ史上、最も残虐なレイプ殺人鬼、ポール・ベルナルドを有罪に追い込むために、共犯者だったカーラ・ホモルカ(ポールの妻)と検察側で取り決められた司法取引は、結果的には大きなミステイクだった。

 というのは、カーラの有力な証言を得るために、検察側は12年の懲役という軽い求刑にとどめるという取引を公判前にカーラと結んだのだ。ところが、司法取引後に決定的な証拠であるビデオテープが発見され、カーラの証言そのものがポールを有罪にするための切り札となったわけではなかった。

 もし、ビデオがもっと早く検察側の手に入っていたら、カーラとの司法取引は必要ではなかったし、彼女の実妹を殺害した罪についても、カーラは起訴されるべきであった。しかし、すべては司法取引が済んだ後だったので、まさに「あとの祭り」である。

 ポールは第一級殺人罪につき、終身刑を宣告されたが、3人の女性を殺害した共犯者であるカーラは、たった12年の刑だった。被害者の家族は、どれほど悔しい思いのことだろう。

◆権利と自由の憲章

 1982年に施行されたカナダ憲法の「権利と自由の憲章」は、司法の上で大きな影響を与えている。

 読み方によっては、いろいろと違った解釈ができるため、結果として犯罪者の人権を尊重し、常識では考えられないことも起こってくる。

 例えば、1985年3月にシンシア・ロイは、ロックコンサート場で、警官からバッグを開けるように言われ、中に入っていたマリファナを発見され、現行犯で逮捕された。

 だが、裁判では警官が令状なしに個人の所有物を捜査し、彼女の人権を無視したとして、無罪判決だった。

 「権利と自由の憲章」が、何においてもネックとなり、解釈次第で正義がどのようにでも判断されるのが、これからもカナダの宿命だろう。

 だが、正義を追求するとき、文字の上での解釈にこだわり、人間としての常識や良心が忘れられてはならない、と強く願っている。

初出:「カナダの司法を斬る! 司法システムの考察と疑問」より抜粋
日加タイムス 1995年11月10日号


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