エッセイ

カナダ人はお人よし?

 新型肺炎SARSのおかげで、世界中にトロントが有名になってしまった。毎日のように発表される感染患者、死亡者、そして自宅待機者の数。

 一時SARSは影をひそめたかのように、新しい患者が出ていなかったが、5月半ばにトロント北部の病院とリハビリセンターでSARSが再発。その病院の医療スタッフだった母親と息子(高校生)が感染し、彼の通う学校は閉鎖され、生徒や教師らも自宅待機に・・・。現在7000人以上が10日間の自宅待機となっている。

 それにしても、アジア以外で唯一の「感染地域」に指定されたカナダは、いったい他国の人たちから、どう思われているのだろう。特にトロントは「バイキンがウヨウヨする不潔な街」なんていう印象を与えてしまったのでは、と心配になる。カナダは世界で最も水準の高い医療技術を誇っているというのに。日本からカナダへ留学してくる医者が多いことを、みなさんはご存じだろうか。

 そんなカナダがまるで貧乏クジを引いたようなSARS災難。おとなりのアメリカはSARSの影響をほとんど受けていない。どうして?カナダの10倍もの人口と移民の国アメリカなのに、SARS患者が70人弱で死亡者ゼロなんて信じられない。報道規制しているのではと疑いたくなる。中国だって、ずっと患者数をごまかしていたではないか。

 カナダはそれに比べると、まあ何と正直なこと。正直の上に○○がつくのでは、と思うことが多くある。例えば、SARS関連でCNNテレビに出演したトロント市長メル・ラストマン氏のとんだインタビュー。

 「WHOって一体どんなグループなんだ!」と言ったり、トロントのSARS患者の数を答えられなかったりで、その後トロント市民から袋叩きの目にあった。彼はこれまでにも失言、失態の繰り返しが多く、「あー、またドジをして!」と皆をあきれさせた。

 他にも正直な政治家に、クレチアン首相がいる。アメリカのイラク攻撃に際し、「カナダは戦争には加担しない」と発表して、アメリカからたいそうなひんしゅくを買った。彼は最近の記者会見で、アメリカの経済低迷を指摘し、またもや「余計なことを言うな!」とアメリカ政府から大反撃を受けている。ところが、その後クレチアン首相は「言論の自由で、思ったことをそのまま口に出しただけ。アメリカに謝るつもりはない」と、またまた正直な表明をした。

 こんな具合で、カナダ人の言動には裏がない。そしてカナダ人はたいへん心やさしい。つい最近起きた、悲しく痛ましい出来事に10歳の女の子のバラバラ殺人事件がある。犯人はまだ捕まっていないが、事件が発覚してから、女の子の自宅前には、次々に花やお悔やみカードが山積みとなり、彼女のお葬式には何と1000人もの人々が列席した。しかも、参列者の中にはオンタリオ州首相、トロント市長、トロント市警総監ら、そうそうたる顔ぶれ。その様子は全国ニュースで報道され、まるでセレブ扱いだった。

 火事で焼け出されたり、事故の不幸があったりすると、すぐに市民が義捐金を集めるのも、いかにもカナダ人らしい。そのタイムリーなボランティア精神には、いつも感心する。

 トロントでSARSの波が納まりかけた頃(5月初め)、各新聞紙上で全面広告が一斉に載った。大きく「THANK YOU」と印刷された広告には、SARSに屈することなく献身的に働く医者や看護士、その他医療スタッフへの感謝とねぎらいの言葉が続いていた。これも実にタイムリーだった。  ほんと、カナダ人って、いい人ばっかりなんだから。

2003年5月30日



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