動物小話

ハーネス・レース


 皆さんはハーネスレースをご存知だろうか。

 馬に引かせた2輪車に騎手が座った格好で走らせる競馬である。

 北米やヨーロッパでは日常的に行われている競馬だが、日本にはほとんどない。かろうじて北海道の草競馬で、馬の後ろにソリを引かせ、騎手がソリの上に立って競走する「ばん馬レース」が有名だ。ちょっと昔の名画「ベンハー」を思い出させる。ハーネス・レースは日本では「繋駕(けいが)レース」と呼ばれる。

 そのハーネス・レースの中でも一大イベントである"Canadian Pacing Derby"が8月31日トロントの北に位置するウッドバイン競馬場で行われた。

 ちょうど同じ日に最高賞金110万ドルの"Metro Pace"というハーネス・レースもあったので、多くの競馬ファンが集まった。

 レースが夜7時半から始まるので、我々は4階のレストランへ直行。しかし、予約を入れなかったため、窓際の席には座れなかった。残念。

 でも、ダイニングテーブルや部屋の壁には、テレビがたくさん設置されており、実況中継が放映中だ。特にレース前に馬やドライバー(騎手)の情報が中継放送を通してよくわかるので、たいへん便利。

 食事はバッフェ式(一人35ドル)の夕食で、前菜、サラダ、メイン料理など、豪華なセレクションだ。さらに、デザートは新鮮な果物や、ムース、ケーキ類が盛りだくさん。

 「オーカナダ」の斉唱が始まると、レストラン客も全員起立して、国旗を掲揚した。3人のトランペット奏者によるパッパラパーッと聞き慣れたイントロで、いよいよレースの始まりだ。

 第1レース。ぜんぜん予備知識なしで、7番走馬のBo Knows Billに2ドルPlaceに賭ける。恥ずかしながら、ギャンブルはこれが初体験。だから、基礎的な賭け方しか皆さんに説明できないのだが、一番簡単な賭け方は、Win=1着、Place=1着か2着、Show=1,2,3着のどれかを予想するタイプ。

 そのほかExactor=1着と2着、Triactor=1,2,3着、Superfecta=1,2,3,4着まで、Pick3=3つのレースのそれぞれ1着、など当たる確立が低くなるほど、当然配当金は高くなる。

 前述した「7番に2ドルPlace」だと、7番が1着か2着だったら、配当金が入るわけ。それにしても最低額の賭け金2ドルじゃ、ちょっとせこすぎる?いやいや、ギャンブルは少しのお金で競馬そのものを楽しむ方が、ずっとスマート!

 ハーネス・レースのスタートは面白い。レースの幅一杯の長いゲートを屋根にとりつけた車がゆっくり走り、そのゲートの後を9頭の馬が1/4周ほど走り続けて、うまいぐあいに、ちょうど横一直線に並ぶと、ゲートが2つに折りたたまれて、車は全速力で馬から離れる。この瞬間がスタートだ。

 Canadian Pacing Derbyというタイトルの通り、馬はペース(伸長速歩)の肢運びがルール。ペースが得意な馬種にスタンダードブレッドがあり、ハーネスレースのほとんどは、この種の馬である。

 1マイルのレースの最終直線に入ろうとした瞬間、なんと、私が賭けた7番馬がギャロップ(駈歩)をしてしまい、失格。ギャロップしたら、即座にレースから横に離れて、他の馬の邪魔にならないように退場しなければならない。

 第2レース。2番馬のCard Trick Hanoverに2ドルWinを賭けたが、途中まで2着だったのに、結果はどん尻。1マイル(1.6km)のレースは、最終直線で番狂わせが多い。トップを走っている馬が、あれよあれよと抜かれたり、後方から急に飛び出してくる馬がいたり。普通の競馬よりも、ハーネス・レースのほうがスピード感はずっと劣るが、レースの運びは、予想以上にエキサイティングだ。

 騎手は足をすっかり伸ばした状態で2輪車に座っていて、長手綱で馬をコントロールする。ラストスパートでは、騎手は体を後ろへ反らせたり、鞭でしきりに馬のお尻を叩いたりして馬を走らせるのだが、ひとつ間違えば大事故を招く危険な競馬である。

 第3レースは、10番馬のEternal Connectionに2ドルShow(だんだん安全な賭け方になってくる)でいってみた。結果は・・・・3着だった!初めて8ドル80セントの配当金をカウンターでもらう。このレースは、Pick3の配当金が$1,529.20だったから、結構大穴だったようだ。

 レースとレースの間の時間が空いてしまうが、退屈はしない。レストランの客は、バフェ料理を延々と楽しんでいる。実際、もうお腹いっぱーい!と言っていた自分も、9時半を過ぎたころには、デザートコーナーへ足繁く通うのだった。

 2ヶ所のテーブルから、誕生日を祝う歌が聞こえてきた。パーティーと競馬観戦を兼ねるのも、いいアイデアかも。ガイドブックを読んで、馬券を買い、レースを見て、配当金をもらい(あるいはお金をすって)、おいしい食事をして・・という具合にアクションが多いので、時間があっという間に過ぎてしまう。

 さあ、いよいよ本日の目玉、最後の第7レースだ。賞金は$845,500。3番馬Real Desireがおそらく勝つだろうと言われている。手堅く3番をShow、7番馬のFour Starzzz SharkをPlaceに、6番馬のElectric StenaをWinと賭ける。(でも、全部2ドルずつ。ほんとにケチなんだから!)結果の着順は、3_7_6だった。このレースでは7ドル70セント勝ちー!

 最近の日本では、史上最高800万円以上の大穴馬券が出たが、今回のダービーはそれほどの大穴はなかった。でも、全部で20ドルそこそこの賭け金で、こんなに面白いハーネス・レースを楽しめたのだから、大満足。

 うーん、なんだかハーネス・レースにハマリそうれーす。

初出「日加タイムス」志摩夕美のやじ馬通信第7話・・2002年9月27日号



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