
「ホース・ウィスパラー」とは「馬にささやく人」という意味。
馬を調教する方法は、昔は鞭と縄を使って暴力的に馬を脅かし、力づくで手なづけるのが普通だった。
しかし、馬にささやくようにして、馬とのコミュニケーションをはかり、馬の気持ちを理解しながら調教する方法が、近年になって注目され始めている。ニコラス・エヴァンスの著書「ホース・ウィスパラー」は、99年のベストセラーで映画化された。本書のモデルだと言われるアメリカ人調教師、モンティ・ロバート氏はおかげで一躍有名になり、今や北米各地での調教デモンストレーションに多忙な日々を送っている。 カナダにも、もちろん「ホース・ウィスパラー」と呼ばれる人々がいる。その中でも乗馬界で名が通ったゲリー・コンベリー氏は、650エーカーのホースファーム"プレジャー・バレー"のオーナーで、「Gストリング」というBit(ハミ)のないBridle(頭絡)を考案した調教師だ。 5月26日、コンベリー氏のファームでホースマンシップを学ぶセミナーが開かれた。彼の愛馬であるロッキーマウンテンホースの「ダスティ」を使って、いかに馬との意思疎通をはかるか、どうしたらもっと自然に馬をコントロールできるかなどをわかりやすくデモンストレーションしてくれた。 馬は惚れ惚れするほど美しい動物である。でも馬に自分がボスだと教えるためには、まず馬をじっと見つめないこと。キーポイントは、馬に自分を注目させることだ。 馬場(パドック)にいる馬を捕まえようとする時、用意している無口頭絡や引き綱をわざと自分の背中に隠すようにして馬に近づく人がいるが、これは間違ったアプローチの仕方。馬の鼻面まで近づいて、突然馬をつかまえ、引き綱をつける。なぜ馬を驚かせるようなことをするのか、とコンベリー氏は言う。
馬は100%支配され、安全・安心感を持つことが、幸せのバロメーターだそうだ。人間が示す「優しさ」を通した「上下関係」が大事だという。 馬を引くときは、たいてい左側に立って引き綱を持つが、コンベリー氏はむしろ馬の先を歩き、後ろ姿を馬に見せるように指導する。なるほど、自分の経験からも、馬の真横に立って一緒に歩いて、足をいやというほど踏まれたことは何度もある。 馬のいろいろなジェスチャーを誤解していたことも、今回のセミナーで明らかになった。例えば頭を摺りよせてくるのは、人間への愛情表現ではなく「オレのほうが優勢だぜ」という表現。 「馬を触るのはあなたであって、馬にあなたを触らせてはならない」とコンベリー氏。生まれたての馬のトレーニングも、触ることから始まる。だが、馬からは決して触らせないそうだ。 馬にブラシをかけるのは、馬とのコミュニケーションを保つ大切な行為である。ブラシをかけながら、馬の全身を触ること。しっぽもブラッシングしながら触るようにする。そして、すべての行動に3秒待つという手順を加えてみる。馬の首に綱をまわし掛けて3秒、背中に綱を乗せて3秒、お尻に3秒、という具合に。馬がじっとしているようになるまで、ブラシをかける時に毎回必ず試してみる。 よく馬が言うことを聞かないと「NO!」と叫んだりする人がいるが、いらいらする反応は、馬にとって逆効果。 馬を大人しくさせたかったら、耳のすぐ前にあるくぼみを指で押すか、上くちびるの裏側の真ん中を(ちょっと難しいが、指をくちびるに入れて)押してみる。すると、たいていの馬は静かに落ち着くという。これらの刺激が馬の脳からエンドルフィンを出し、鎮静剤の役割をするからだ。 ただし、過剰なエンドルフィンは困りもの。馬の典型的な悪い癖として、フェンスの横木を噛んで空気を呑み込む「クリバー」や狭い馬房の中で横揺れを繰り返す馬がいるが、これはほかでもない、脳がエンドルフィンを放出させ、麻薬中毒のような状態になっているからだ。こういう悪い癖は、なかなか直せない。 馬と人との良い関係は、馬をどれだけ理解しているかにかかってくる。馬の本能や性格を理解すれば、人は馬から尊敬され、自然なリーダーシップが生まれるはずだとコンベリー氏は信じている。
Gary Convery氏の連絡先:
初出「志摩夕美のやじ馬通信第5話」 「日加タイムス」2002年6月21日号 |
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