動物小話

チャコとフリスビー


 新婚当初(もう18年近く前だけど)どうしても犬が欲しかった私。子供の頃から犬が大好きだったが、いつだってアパート暮らしだったので、ペットは金魚か手乗り文鳥どまり。飼いたくても犬は飼えなかった。

 結婚してカナダに住むようになったとき、何はともあれ「犬を飼う」ことが家庭を作るための第一ステップだった。自分の当時の年齢を考えると「子供!」というのが本来あるべき姿勢だったかもしれないが・・・。

 夫は犬を何度も飼ったことがあり、すんなりOKしてくれた。どんな種類の犬にしようかと、ある週末、夫とドッグショーを見に行った。そこで巡り会ったのが、ケイリンテリアという小型犬。成犬でもパピーみたいに幼さを残していて、いたずらっぽい丸い目で、誰がケージのそばを通っても、しっぽをちぎれんばかりに振り、愛敬の良いことこの上ない。ちょっとワンパク小僧っぽくて、夫と私は一目ぼれしてしまった。

 それからケイリンテリア専門のブリーダーを探し、とうとうオシャワ市にいるブリーダーからパピーを買った。数匹のパピーの中で一番丸々と太っていたメスを引き取った。「永久に子供のまま」という意味で「久子」と名付け、ニックネームをチャコとした。

 チャコは性格の優しい、とてもいい犬だった。食いしん坊なのが玉にキズ。なんだって食べちゃうから、散歩中に飲み込んでしまった得体の知れない骨のために獣医のお世話になったこともある。

 チャコが8ヶ月の頃、遊び相手が欲しいだろうと思い、またケイリンテリアを買った。今度はオスで年齢はチャコより2ヶ月若いだけ。名前はフリスビーにした。ほら、円盤みたいに投げて遊ぶゲームをフリスビーっていうから。とにかく遊ぶのが命!みたいなワンチャンだったので。

 チャコとフリスビーは家の中でも外でも、じゃれあっていつも遊んでいた。どっちかと言うと、チャコがフリスビーの耳の中をなめて掃除したり、母親のように接していた。同じケイリンテリアでも性格はそれぞれ違っていて面白かった。

 フリスビーは手術してオスではなくなったけど、それでもテリトリーには敏感で、庭にリスが来ると狂ったように吠え、外に出すと、すごい勢いで追いかけた。

 一度もリスに追いつくことはなかったけれど。チャコのほうが先に家に来たのを知っているのか、一応遠慮して、餌を食べるときもおしっこをするときも、チャコの後にした。

 娘が誕生した時、チャコの行動に大きな変化があった。まず、噛むとキュウキュウ鳴るカメのおもちゃをいつもくわえて歩き回った。そして、カーペットやベッドの上でおしっこをしてしまう。まるで「私のこともかまってよ!」と言っているかのように。明らかに娘が家族の一員となったことを妬いていた。

 単細胞のフリスビーは、あいかわらずしっぽをふって、誰にでも愛想よく振るまい、2匹を比べて私は面白がっていた。2年半後に息子が誕生した時は、何事もなかったが。 それからチャコは娘のベッドの上で、フリスビーは息子のベッドの上で一緒に寝ることになり、この習慣は何年も続いた。

 2匹とも病気知らずで、健康そのものだったが、フリスビーが13才になった頃、森の中を散歩に出かけても、いつのまにか近道を通って自分だけ先に家へ帰ってしまうことが多くなり、やがて足をひきずるようになって、獣医のところへ連れていった。診断結果は、背骨にガンが発見され、もう先は長くないとのこと。

 歩けなくなってからは、私が抱いて外へ出しトイレをさせていた。食欲はあったが、どれほど体が痛いのか、私たちには知る由もない。

 家族皆で話し合い、獣医に家へ来てもらって安楽死させることになった。その前日には、皆で森の中のいつもの散歩道を歩いた。フリスビーをかわりばんこに抱きながら歩き、フリスビーが元気だった頃を思い出しながら、涙した。

 チャコはフリスビーの死後、淋しいのでは、とすぐにケイリンテリアのメスのパピー(デイジーと命名)を買ったのだが、当時13才のチャコは、人間で言うなら80才近いおばあちゃま。もうパピーがちょろちょろするだけでうっとうしい。彼女はその頃は、食べて寝るだけの隠居生活だったのだから。 そこで、デイジーの遊び相手に今度はラソプー(ラソアプソとプードルの混血)のメス(名前はクッキー)が新しく我が家のメンバーになった。

 エネルギーあり余るパピー2匹と一緒で、チャコは迷惑だったかもしれない。

 でも餌をやるときは、必ずチャコがまず最初で、一応こちらも気を使っていた。

 もう歯がほとんど抜けてしまったチャコなのに、食欲は旺盛でなんでも良く食べた。それでもだんだん白内障がひどくなり、ほとんど眼は見えなくなり、口の横にできた腫瘍が大きくなり、毛並みもボロボロになっていった。その頃には、心臓の薬を毎日飲ませ、ホルモン剤まで与えていた。やはり歩く事が難儀になり、玄関の外へ出るのが精一杯だった。

 もうこれ以上生かすことは、かえってチャコを苦しめると判断し、今度も同じ獣医に家まで来てもらい、夫と私が見守る中、チャコはお気に入りの自分のベッドで永眠した。

 段ボールの箱の中を花一杯にして、家の庭の一角にあるフリスビーと隣り合わせのお墓にチャコは眠っている。あと2週間で17才になるところだった。

 チャコとフリスビーは私にとって、子供たちが生まれる前に家族のメンバーとなっただけに、思い出は限りない。カナダへ来て間もない頃は友人も少なく、犬たちと毎日を過ごし、臨月でお腹がパンパンに膨れ上がっていた時でも一緒に散歩に出かけた。

 2人の子供と一緒に育っていったチャコとフリスビーは、最高のペットだった。



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