動物小話

乗馬セラピー-CARDを訪問-


 トロントの北西(Dafferin x Finch)にある広大な「G.Ross Lord Park」の敷地内に"CARD"(Community Association for Riding for the Disabled=障害者乗馬協会)がある。

 1969年に創立したCARDは、13人のスタッフ、理学療法士と作業療法士が1人ずつ、年間7万5千時間を提供する300人によるボランティア、そして乗馬セラピー用の馬たち18頭で成る非営利団体だ。

 雪がちらつく土曜日の午後、CARDを訪れ、乗馬インストラクターのジョディ・アリソンさんに話をうかがった。

 ちょうど6人の子供たちの乗馬セラピーが始まるところだった。全盲のアンドリア、脳性まひで両足が不自由なスティーブン、右足が動かないジョン、やはり両足が不自由なクリスタル・・・子供たちの障害はさまざまだ。

 鞍と馬勒をつけ準備万端の馬が、1頭ずつボランティアによって引かれてくる。踏み台のステージに子供を立たせて、馬の背の高さに合わせるため、台を電動で上下する。足が全く動かない子供は、ボランティアが二人がかりで鞍に乗せた。

 6頭の馬に乗った子供たちが、屋内アリーナに集合した。 驚いたことに、アリーナは暖房を入れないのが普通だが、ここは天井から暖房の熱が、ポカポカ注がれている。それぞれの馬に、ボランティアが二人ずつ付き、1時間のレッスンが始まった。

乗馬療法の効果

 「乗馬セラピーのレッスンは週1回、約10-12週間が1セッションです。今、馬に乗っている子供たちは、身体障害児ですが、知的障害児、例えば自閉症やダウン症の子供たちもCARDのメンバーです。もちろん大人の障害者もいますよ」とジョディさん。

 「馬が歩くときの筋肉や骨の動きは、鞍を通して乗り手に人間が歩くときと同じ移動形態を伝えます。体が不自由でも、馬の動きによって、自然に腰は上下や左右の回旋ができるのです。馬の適度な振動が体全体を刺激して、硬直した体をほぐし、バランス感覚も学べます」

精神面の利点としては、生きている馬を相手にすることで、愛情を持って自分から積極的に行動を起こすようになったり、乗馬の緊張感のおかげで、集中力が増すようになる。

そして何よりも、障害を持った子供や大人が、笑顔で乗馬を楽しんでくれること。それは、スタッフやボランティアの大きな喜びだ。

「乗馬セラピーに関わっていると、本当にたくさん、心の"ごほうび"が貰えるのよ」 ジョディさんは、目を細める。

 6人の子供たちを乗せ、馬はゆっくりと常歩(なみあし)で歩いていく。インストラクターの「止まれ」の号令に、ちゃんと立ち止まり、「歩け」の指示があるまで、じっとしている。

 「馬はいろいろなところから寄付されますが、安全な乗馬を提供できることが、絶対条件です。CARDへ来てから特別に訓練をして、もし馬の性格や乗り心地に問題があれば、馬はもとのオーナーに返されます」

 なるほど、ここの馬は立ち止まったら、まさに微動だにしない。レッスンが佳境に入ると、アリーナ内を8の字に回ったり、速歩(はやあし)をしたり。しかも、実にお行儀が良い。馬の脇には、絶えずボランティアが付いて走るので、人の動きを気にしない、おとなしく忍耐強い馬であることも必須だ。

恵まれた環境

 CARDは自然保護公園内にあるので、気候のよいときには、トレイルを外乗することもできる。屋外には放牧用の馬場があり、19頭を収容できる厩舎は、広々として清潔だ。

 屋内アリーナを大きな窓ガラスごしに見学できる部屋は、ゆったりしたソファーや椅子が備わり、憩いの場になっている。

 レッスンが終わったクリスタルに、「どのぐらい馬に乗っているの?」と聞くと、「5才の頃から9年間!」という答えが返ってきた。ジョンもCARDでの乗馬は10年目という、ベテラン・ライダーだ。

 ハンディキャップを持つ人すべてに、乗馬セラピーが良いわけではない。障害の度合いによっては、乗馬の動きが逆効果なこともあるからだ。

 医師の推薦と理学療法士による査定で、乗馬セラピーの効果があるだろうと判断されたら、受けることができる。

 CARDの場合、個人が負担するレッスン料は1期(10-12週間)300ドル。ただし、実際に乗馬セラピーにかかるコストは、ひとり1200ドル!CARDでは、資金集めの活動に忙しい。

 それにしても、ボランティアを300人も抱えているという事実に、北米の多大な奉仕精神を見る思いだ。これからも、意義ある乗馬セラピーを提供し続けてほしい。

初出「日加タイムス」「志摩夕美のやじ馬通信 第十話(最終回)」 



ホーム戻る

Copyright (C) 2001-2003 Yumi Schemmer. All rights reserved.
This site best viewed using 800 x 600 screen resolution and True Colour display.